移動現象論

教員

前多 裕介(Yusuke T. MAEDA)

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研究テーマ

分子・エネルギー・情報の流れに関する移動現象論の研究を行っています。ソフトマターの移動現象、アクティブマターの自律移動と構造形成、ナノマシンのエネルギー論に関して、実験・理論・計算により基礎原理を解明します。さらに、移動現象を利用した分子制御技術の開発、自律的に流れを制御する新規材料の創出につなげ、化学工学に資する革新的技術への拡張を目指します。

連絡先

桂キャンパス A4棟 地下1階019号室
E-mail: maeda @ cheme.kyoto-u.ac.jp

研究紹介

私たちの研究室では物質から生命まで幅広い系を対象とし、分子・エネルギー・情報の流れを扱う移動現象論を探求するとともに、複雑な移動現象の制御と社会実装につながる技術開発を目指しています。

皆さんが学部授業などで学ぶ物理化学では多くの場合、熱平衡系や化学平衡系を扱います。これらの平衡系においては自然現象の法則が体系化され、巧みな制御から社会実装につながる学理が構築されています。しかし、ひとたび平衡系から離れれば制御原理が未知となることがしばしばです。例えば、生きている細胞ででは平衡系には見られないパターン形成や自発的な流れが現れることが知られていますが、それでも生命は自律的な活動を実現しています。その理解と制御の鍵となるものは、物質・エネルギー・情報を変換し、平衡から離れた状況で動作するシステムー非平衡系ーにあると考えられます。

非平衡系には不思議な現象が数多く見られます。高効率なエネルギー変換を示す分子モーター、規則的なパターンが生まれる化学反応系、自発運動する微粒子の群れによる高パフォーマンス性など、物質と生命の境界には新たな化学工学の研究領域が広がっています。以下では、移動現象論研究室で行われている幾つかの研究テーマについて紹介します。

1. 非平衡系における移動現象の研究

代表的な非平衡現象は、温度勾配や分子の濃度勾配の下での物質の移動現象です。電場や磁場に比べると、熱が示す移動現象の理解は遅れていますが、レーザー光によって微小サイズの熱源を作ることができるという利点もあります。私たちはレーザー光を用いた温度勾配下での柔らかな分子(ソフトマター)や微粒子の移動現象を対象として、実験のみならず流体力学や非平衡物理学の理論、計算機によるシミュレーションも用いて研究を進めています。

さらに、分子や微粒子を輸送する際にはどのような速度で・どの場所にどの程度の正確さで物質を運ぶのかという点も問題になります。余分なエネルギー散逸を抑制するための最適なプロトコルとは何か、物理的限界を定める基本原理の解明と実験的検証を目指しています。

2. アクティブマターの動作機構と制御原理の研究

自ら化学的エネルギーを力学的な運動エネルギーに変換し、自律的に動く物質群をアクティブマターといいます。その例は多岐にわたり、化学エネルギーを消費して自律的に運動する分子モーターや、水中を遊泳する微粒子や液滴、私たちの体を構成する細胞とその集団にまで広がります。アクティブマターの特徴の1つは、密度の高まりとともに群れを成して一体となり、個々の動きのゆらぎを抑えて規則正しい集団運動を示す秩序相に転移することです。私たちはアクティブマターが示す多彩な集団運動の理解と制御を通じて、エネルギーと情報の流れの制御により高いパフォーマンスを実現する化学システムの研究を進めています。

3. 移動現象の自在制御による分子・細胞操作技術の開発

非平衡系の移動現象を利用した分子や細胞の操作技術の開発を行っています。一例として、温度勾配下のソフトマターの移動現象の特性として、捕捉する物体の電磁気学的性質に依存しないという性質があります。この特性を利用することで、従来操作が難しかった生体高分子や生きた細胞の分布を制御する光技術の開発を行いました。この手法をアクティブマターや細胞集団に拡張することで、複雑な流動現象や細胞組織の構造形成を自在に操作する革新的技術の開発を進めています。